胃潰瘍・十二指腸潰瘍の食事
胃潰瘍、十二指腸潰瘍と診断されたとき、食事はどのようにしたら良いのでしょう?
胃を安静にするために、何も食べないほうが良いのでしょうか?
絶食について
悪心、嘔吐、出血など自覚症状が激しい発作時には、一時的に絶食にし、点滴により栄養を補給します。
しかし、長期間、胃の中を空っぽにしておくことは、飢餓による消化管運動の収縮誘因となり、必ずしも胃の安静につながりません。
出血した場合も、止血後は比較的速やかに、流動食~粥食など柔らかい食事から開始するようにします。
現在は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍に効果的なすばらしい薬が出ているため、上記のような急性期の場合を除き、家庭で管理できる程度の病状の場合には、あまり厳しい食事制限はしません。
あれもこれも…と気にし過ぎ、食事そのものがストレスになることを避けたいものです。
だからと言って、ご飯と漬物や塩辛だけで食事を済ませる、ビールやコーヒー、お菓子をいくらでも…などといった食事では、やはり胃に負担をかけてしまいます。
ある程度の注意をしながら、バランスのとれた食事を腹八分目に規則正しく、よく噛んで、楽しい雰囲気の中で食べることが大切なのです。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍食事療法の基本方針
(1)栄養価が高く、胃酸分泌に及ぼす影響が少ないこと。
(2)短時間に消化され、胃内停滞時間(胃の中に溜まっている時間)が短く、胃・十二指腸粘膜に大きな負担をかけないこと。
基本の食事療法を進めるために、以下のような点に注意しましょう。
1)刺激性食品は避けましょう
十二指腸潰瘍では胃の中の酸(胃酸:食べ物を消化してくれる)が高くなっています。
逆に胃潰瘍では胃酸が低くなり、食欲がない、胃が重いなどの症状が出てきますが、活動期には、やはり胃酸が高くなっている場合もあります。
刺激性食品を取ることにより胃酸の分泌が促進されることを避けるようにしましょう。
避けたい刺激性食品 | |
アルコール | ・胃酸の分泌を亢進させます。 |
タバコ ↓ 基本的には禁煙しましょう! |
・胃酸の分泌を亢進させます。 ・粘膜の血流循環に障害が起こり、胃の粘膜を守る働きが 弱くなります。 ・一酸化炭素による粘膜の酸素欠乏がおこり、胃の粘膜を 守る働きが弱くなります。 |
カフェイン | ・コーヒー、紅茶、抹茶、ココアなどはカフェイン含量が多く、 胃酸の分泌を亢進させます。 『どうしてもコーヒーが飲みたい!』という方へ… *できるだけ薄いコーヒーにしましょう。 |
炭酸飲料 | ・サイダー、コーラ。ビール、ラムネなどの炭酸飲料は胃酸の 分泌を亢進させます。 ・炭酸のガスが胃の中の容量を増大させ、潰瘍部を悪化させます。 |
香辛料 かんきつ類 |
・香辛料、ニラ、にんにくなどの香りの強い野菜。 →味付けは薄くしましょう。 ・夏みかん、レモンのような酸味の強い柑橘類。 ・酢や梅干しなどの酸味。 |
熱いもの 冷たいもの |
・極端に熱い物や、冷たいものが刺激になります。 食べるときは、一度口に含んで、ぬるくしてから ゆっくり食べるようにし、食べ過ぎないようにしましょう。 |
胃潰瘍で胃酸が低くなっている場合
胃酸が低い場合、食欲低下が起こしやすいので、酢の物など酸味の使い方を工夫し、少量の香辛料を取り入れ、おいしく食べられるようにしましょう。
ただし、アルコールやコーヒーを飲みすぎる、香辛料が強い料理をたくさん食べる…といったことは胃の負担になるので、注意しましょう。
2)消化の良いものを食べましょう。
『消化の良いもの』…とは?
(1)物理的に硬くないもの
↓ タコ・イカ・貝類・干物…など硬いものは消化が悪いのです。 ↓
[調理の工夫] … 柔らかく調理する。茹でて食べる。生食しない。
(2)食物繊維が多くないもの 多いもの ⇒ ゴボウなどの根菜類、海藻類、きのこなど
[調理の工夫] … 細かく切る、ミキサーにかけるなどの工夫で食物繊維は少なくなります。
(3)胃内停滞時間(胃の中にとどまっている時間)が短いもの 胃内停滞時間が長い = 胃の負担が大きい 油は胃内停滞時間が長いため、消化が悪く、胃の負担も大きくなります。揚げ物など油をたくさん使った料理は避け、バターやマーガリンなど、比較的消化の良い脂肪を少しずつ摂取するようにしましょう。
3)1日の食事を4~5回に分けて食べましょう。
一度にたくさんの物を食べると、弱っている胃に負担をかけてしまいます。 また、食事と食事の間隔があきすぎて、 胃の中をからっぽにしておくことは痛みの原因にもなります。 (胃液の濃度が高くなるため) そのため、食事の回数を4~5回に分けましょう。
しかし…
食事回数・食事量を増やしすぎる…いわゆる食べ過ぎは、
逆に、胃液の分泌量が増えすぎたり、
胃に負担になったりしてしまうので、食べ過ぎには注意です!
(4)ゆっくりよくかんで食べましょう。 よくかんで食べ物を細かくし、唾液とよく混ざり合うことによって、 消化されやすくなるため、胃への負担も軽くなります。
あわてて食べたり、仕事や勉強などのことを考えながら食べたり、 イライラしながら食べると、胃の消化もスムーズにいきません。 それが胃の負担になってしまうのです。 楽しい雰囲気の中、ゆっくり味わい、食べることの楽しさを感じながら食べるようにしましょう。 楽しく、おいしく食べることがストレス解消になるのです!
3大栄養素 ~ 糖質・たんぱく質・脂質 ~
糖質 |
・胃液の分泌を促進させる作用が少なく、胃に対する刺激が少ない。
・胃内停滞時間(胃にとどまる時間)が短く、胃に負担がかかりにくい。 ・負担が少ないため、一時絶食後、口から食べ始めたときの栄養補給の主体となります。 |
たんぱく質 |
・たんぱく質は胃液の分泌を刺激する反面、胃酸を中和する役目も強く、十二指腸潰瘍など、胃酸が高くなっている場合では、たんぱく質はむしろ消化されやすくなります。 ・たんぱく質は、胃の粘膜の材料であり、潰瘍の治療には不可欠な栄養素です。 ・胃酸の分泌を刺激しにくく、消化されやすいたんぱく質食品を選びましょう。 [適したもの] 牛乳、乳製品、半熟卵、魚料理、挽肉料理、豆腐料理 |
脂質 |
・胃酸の分泌を低下させる働きがありますが、胃内停滞時間が長く、その分、胃に負担が大きくなります。
・バターやマーガリンなど、比較的消化の良い脂肪を少しずつ摂取するようにしましょう。 |
食品の選び方 ~食べるときの参考にしてください~
食べてよいもの | 少しならよいもの | 避けたほうが よいもの |
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穀類 | 米: 軟飯、おじや、粥 小麦粉: |
普通に炊いた飯 マカロニ そば |
すし飯、チャーハン 山菜、きのこご飯 玄米、麦飯、 ラーメン、揚げもち |
いも デンプン類 |
じゃがいも、里芋 やまのいも、でん粉 |
さつまいも | ポテトフライ |
砂糖類 | すべて | 大量に摂ること (味付けが濃く ならないように…) |
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菓子類 | プリン、ババロア 乳飲料、カステラ ビスケット、ゼリー |
クッキー カスタードケーキ |
ケーキ、ようかん チョコレート あんの多い菓子 スナック菓子 菓子パン |
油脂類 | バター | 植物油 | ラード、ヘッド |
種実類 | すりごま ピーナツバター |
粒のままのもの | |
豆類 | 豆腐、納豆、みそ 高野豆腐、きな粉 |
煮豆(皮をむいて) 油揚げ、 生揚げ(油抜き) |
大豆、小豆 |
魚介類 | 脂肪の少ないもの はんぺん |
脂肪の多い物 カニ、エビ |
イカ、タコ 貝類(カキを除く) 干物 (塩分の多いもの) 練り製品 魚肉ソーセージ 佃煮、魚卵 |
肉類 | 脂肪の少ない部位 (むね、ヒレ、もも) |
挽き肉(脂身有り) | ハム、ソーセージ ベーコン、脂身 加熱しすぎた肉 |
卵類 | 半熟卵、卵豆腐 ポーチドエッグ スクランブルエッグ 茶碗蒸し |
卵焼き、オムレツ | ゆで卵、揚げた卵 |
乳類 | 牛乳、ヨーグルト 脱脂粉乳 |
チーズ | 生クリーム |
野菜類 | 柔らかく煮た野菜 | ネギ、海藻類 | たけのこ、ごぼう フキなどの山菜類 ニラ、漬け物 にんにく、きのこ類 |
果実類 | 熟した果物、缶詰 | みかん (症状が重いとき) 夏みかん、レモン ドライフルーツ |
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し好飲料類 | 番茶、ほうじ茶 玄米茶、麦茶 ウーロン茶 |
薄い紅茶、煎茶 | 酒類、コーヒー 炭酸飲料、ココア |
調味料 香辛料類 |
塩、醤油、みりん 野菜スープ めんつゆ 風味調味料 (味付け濃く ならないように) |
ソース、マヨネーズ フレンチドレッシング(乳化) |
辛子、わさび 唐辛子、こしょう チリパウダー 肉エキス、酢 |
最初にもお話しましたが、家庭で管理できる胃潰瘍・十二指腸潰瘍の食事は、刺激になるものを避ける、消化の良いものを食べるなど、ある程度の注意をしながら、バランスのとれた食事を腹八分目に規則正しく、よく噛んで、楽しい雰囲気の中で食べること、そして過労や精神的不安や緊張からのストレスを緩和することが大切です。 せっかくの食事が逆にストレスとならないように… ということにも注意しましょう。